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花を吐く代わり
お題配布元⇒約30の嘘

田村君。バティドゥア×アウロラ+ミーリニア。

 Namelessといえば芸術関連にさして興味がない奴らが集まっているのだが、その日珍しく侍は目の前にある『芸術』へと興味を示した。
 壁一面に描かれた色鮮やかな絵に少年は、ほお、と感嘆の息をつく。その絵の作者はすぐ隣にいて、別にだからというわけでもなく、「嫌いじゃないでござるよ」バティドゥアは思った事を告げた。「拙者、これ嫌いじゃないでござる」
 嫌いじゃないはイコール好きなのだけれど、バティドゥアは好きと素直に口にするのがあんまり得意ではない。だからいつもツンデレじみた言い方になってしまって、言った後に「あーあ」と頭の中で呆れた溜息を吐く。
 ミーリニアは、真ん丸とした目でバティドゥアを見る。しばらく考えて、ようやく自分の絵が褒められているのだと気付き、少女はぺこりと頭を垂れた。彼女の背にある巨大な筆が、それに従いちょっとだけ揺れる。
 そんな大きな筆でこんな細かい模様が描けるものなのか、と少年が問えば、たどたどしくも彼女はどうやって描いたのかを丁寧に説明する。が、やはりバティドゥアはそういうものには疎いので「さっぱりでござるな」なんてちょっとすまなそうな顔をして笑った。
 もう一度壁を見てみる。そこだけ別の場所みたいに、彼女の描いた世界が広がっている。
 良いな、綺麗だな。
 ……見せたいな。
 そんな事を考えて、考えてから行動に移すのは割と早い方な男なのだ、彼は。

「こういうのは、拙者のような素人からの依頼も受け付けてくれるんでござるか?」
「へ?」
「お主に描いてほしいものがある」

 ◆

「いやぁ、何。この美しさを伝えたい人がいるんでござるよ。やはり、綺麗なものは何人もで楽しみたいでござろう。頼んだでござる」
「た、頼まれたでござる……!」

 とか、案外軽いノリで、依頼は成立した。
 依頼主からの注文はたったの二つだけで、一つは描いてほしい場所はNamelessではない別の事務所の壁である事。そしてもう一つは、絵の中にとある模様を入れてほしいとの事だった。
 その模様というのは、奇妙な線の動きをした小さな模様が五つくらい並べられて更に一つの大きな模様を作っているというもので、ミーリアが今まであまり見た事のない形をしている。不思議だなー、なんて思いながら、ミーリニアはむくむくと想像を膨らませていく。
 カカモラという事務所を、ミーリニアは知らなかった。何故バティドゥアがこの事務所の壁に描くように頼んできたのか、その理由もよく分からない。
 事務所の所長にはバティドゥアが話をつけ、所長は「良いんじゃないかね。華やかそうだ。所員も喜ぶだろうよ」と一秒も迷う事なく快く今回の件を了承したらしい。
 今日のキャンバスは中庭に面している壁の一部分で、ミーリニアはその壁を見ながら、この事務所の人みんなに会ってみたいな、と思う。
 所員に会って、出来たらその人達に似合いそうな色を使いたいな、なんて。
 所長にその事を話してみると、やはり「ああ、もちろん良いとも。彼らも、久しぶりのお客さんに喜ぶに違いない」なんて簡単に了承をする。本当に、一秒も迷わなかった。
 うーん、優しくて温かい色が似合いそうだな、とミーリニアは相手の笑顔を見ながら思った。


 八人中七人の所員に挨拶をし終わって、けれどどうしても一人だけ仕事で今離れていて会う事は出来ないと言われたので、仕方なくミーリニアはその一人の特徴を他の所員に聞いて仕事を始める。
 特徴。『歩くバイオレンス』『怖い』『怪力』……三つとも同じような意味ではなかろうか。所員達にその人に似合いそうな色を訊いてみたら、全員揃って「鮮血の赤……」なんて言い出すものだから、ますますわけが分からない。
 写真も見せてもらったが、暴力的な事とはとても無縁そうな大人しそうなシスターが映っているだけだった。確かに赤も映えるかもしれないが、どちらかというと薄い紫色の香りがする。

「貴女様。わたくしの事務所の壁に何をしていますの? ……あら、綺麗」

 その紫系統の色が似合いそうな女、アウロラがやってきたのは、奇しくも絵が仕上がった直後だった。
 穏やかな笑みを浮かべる彼女からは、やはりバイオレンスな雰囲気はない。代わりに、のんびりほわほわとした空気が漂ってきて、ミーリニアも思わず一緒になってほわほわしてしまう。
 少女は、塗料塗れの身振り手振りで事情を説明する。バティドゥアの名前を出した時だけ僅かに目を細めたものの(獲物を狩るような目だった)、アウロラは始終機嫌良さそうに微笑んでいた。

「良いですわね。貴女様のおかげで、わたくし達の事務所が華やかになりますわ」

 アウロラのその言葉は、所長の言葉と似ている。それがちょっとだけ微笑ましくて、ミーリニアもにこりとする。
 二人でにこにこしながら、今しがた完成したばかりの色鮮やかな絵画を眺め、穏やかな時間は終わりを見せる事なく続いていく……

「なっ!?」

 ……と思いきや、ある一点を見た瞬間、アウロラの黄緑色の毛が逆立った。ように、ミーリニアには見えた。
 先程までの上機嫌は、いったいどこへ逃げてしまったのだろう。女は、眉をこれ以上ないほどにしかめて、唇をわなわなと震わせている。
 怒っている? 怒っている。バイオレンス?
 気に入らなかったのかな、と視線をちょっとだけ、ミーリニアは落とす。怒られるのかな。

「な、何を考えていらっしゃいますの! あの十六歳は!」

 けれど、アウロラの怒りはミーリニアには向けられず、今はここにいない侍のほうへと飛んでいった。
 ミーリニアは、きょとん、と彼女を見て、彼女はその視線に気付くと見るからに「ハッ!」と我に返った表情をする。
 こほん、と尖人の女性は咳払い一つ。あくまでも普段通りの声を装い、問いかける。

「あ、貴女様、この言葉の意味……分かっていまして?」
「え、それ、文字だったんですか? てっきり模様だとばかり……」

 ふらふらとした力ない手つきで、アウロラが指を差す。そこに座しているのは、例の奇妙な模様だった。多少はアレンジしたが、原型がなくなるほどではないはずだ。
 出来たらなるべく目立つように描いてくれと頼まれたので、それはそれは特別丹精を込めて仕上げた個所だ。日の当たり方によって輝き方が変わる特殊な塗料まで使用したおかげで、今もキラキラと輝いている。

「そ、そうでして。なら、良いんですの。悪いのは、あの馬鹿一人だけですわね……」
「えっと、ご不満です……か?」
「ごふま……、いえ、不満ではないですわ。不満ではないですわよ! 嗚呼、もう何を言わせますの!」
「?」

 ミーリニアの疑問の視線に答えられるほど、アウロラはあの侍と同じで素直な性格ではない。
 目の前にある『ニホンゴで書かれた大きなラブレター』から顔を逸らし、長い耳の先まで朱に染めた彼女は「本当、ばかですわ」と呟いた。
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