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スプラウトデイズ
お題配布元⇒約30の嘘

田村君。二班+ミーリニア。

 ちょいちょいと手招きをされた。相手は見知った片目の男である。
 彼らが本拠地としている街以外で、こうして彼らと顔を合わすのは珍しい事だった。「偶然ですね」という言葉をミーリニアが口に出さなかったのは、相手がその言葉を求めていない雰囲気を纏っていたからだ。
 だからミーリニアは無言のまま、素直に手招きに誘われてこてこと彼の元へと向かう。男は満足気に目を細めると、少し離れた場所を指で示した。
 示された場所を見た瞬間、今まで大人しかったミーリニアの心臓が急に騒ぎ始めたのも致し方ない。そこには彼女が一番好きな、彼がいたのだ。
 ミーリニアと男が路地裏の陰に隠れながらも自分の事を見ている事になど気づかず、大通りの隅のほうで勇者様は若い娘と何やら話し込んでいる。
 仕事中だ。と、彼女はすぐに気付いた。彼が手伝っているI.l.パレードの二班の仕事は、主に自身の足で歩いての情報収集である。たとえば酒場でこっそりと別のテーブルの会話に耳を傾け、たとえば人通りの多い道を歩きながらも周りがこぼす言葉は逃さず、たとえば街の住民と直接対話をし、人々に今囁かれている『噂』を手に入れる。誰に話しかけたとしても訝しげに思われない彼には、ぴったりの『バイト』なのだ。
 しかし、彼がそのバイトに勤しんでいる様をミーリニアが実際に目にしたのは初めてだった。先程言った通り、あの街以外で彼らと会うのは珍しい事なのだ。
 今そこにいるのは勇者でもない、自分の幼馴染でもない、I.l.パレードの彼。
 彼が今話しているのは見知らぬ娘だけれど、その娘以上に、彼女には彼が知らない人のように見えた。
 穏やかな笑みを浮かべる彼の横顔を見ていると、妙に胸の辺りが騒ぐ。

「こら、クリス! 何サボってるんだい! ……って、え?」

 軽快な足音と共に紡がれた声に振り向けば、そこには驚いた顔をしている女性の姿があった。
 彼女はミーリニアの事をしばし凝視した後、「あ、あんた!」片目の男、クリストファーに詰め寄り始める。

「こんな……ゎぃぃの……、ど、どこで拾ってきたんだい?」
「やだなぁ、拾ったとか人聞きが悪い。偶然そこで会っただけですよー」

 何を慌てているのか、何やら途中で口ごもった女は、未だ狼狽した様子でミーリニアとクリストファーの顔を見比べている。
 彼女とはミーリニアも面識があった。リーゼロッテという名の女性で、確か彼のこの『バイト』での上司にあたる人物だ。

「えっと、お久しぶりです。リーゼロッテさん」
「ア、アタイの名前が呼ばれてる……!」

 ぺこりと頭を下げたミーリニアに、何故かリーゼロッテはぎょっとした顔をして後ずさる。
「リーゼ班長、大丈夫ですか?」笑顔で言い放ったクリストファーが語尾にご丁寧に「頭」と付け足したが、リーゼロッテの耳には上手く届いていないだろう。
 リーゼロッテが何を混乱しているのかの理由がミーリニアには分からないが、確か前に会った時も似たようなリアクションをこの紫の髪の女性はとっていたので、今更気にはしない。大人しく、事の成り行きを見守っている。
 それからニ、三、クリストファーと言い合い、ようやく落ち着いたのか、リーゼロッテはキリリと態度を整えてミーリニアと向き合い直した。

「ごめんなさい、ちょっとドタバタしちゃって。久しぶりね、ええっと、ミーリニアだったっけかね? 元気そうで何よりだわ」

 今更クールぶっても遅い気もする。「今更クールぶっても遅いですよ、リーゼ班長。班長の恥ずかしい過去は消えませんよ」正直に言っちゃうのがクリストファーである。
 自分でもその自覚があるのか、リーゼロッテは気まずげに一度咳払いをした。薄紫の目が所在無さげに辺りをさ迷った末に、街の時計台の姿を捉える。

「そうだ、アタイ達は今からご飯食べに行くんだけれど、良かったらミーリニアも一緒にどうだい?」
「ご飯よりもミーリニアを食べたい、というのがリーゼ班長の本音なんだけどね」
「クリス!」

 そういえば、そろそろ昼時である。
 ミーリニアがこの街を訪れたのは自分の仕事の依頼を受けたからだったが、依頼人との待ち合わせの時間にはまだ余裕があった。さして空腹を感じてはいなかったので、いっそ昼は食べなくても良いとも思っていたが、幼馴染にこの事がバレるとまた五月蝿く言われるだろう。
 何より、そのアタイ『達』の中にはその幼馴染も含まれているであろう事が、ミーリニアにとってはひどく魅力的であった。こくと頷く少女に、リーゼロッテもようやく緊張を解き(何を緊張していたのだろうこの女は)僅かに笑みをこぼす。
「勇者様もちょうど話し終えたみたいだし、ちょっと呼んできてちょうだい」リーゼロッテのお願いにミーリニアは今度はこくこくと倍の数頷き、勇者の元へと駆けて行った。
 嬉しそうにばーっと走り寄ってく様を「飼い主を見つけたペットみたいですね」とクリストファーが称した横で、リーゼロッテはドキリとした顔をする。大方、似たような事を考えていたのだろう。「お、女の子に向かってペットはないだろう!」と彼女は慌てて怒ってみせたけれど、「えー?」とにやにやと笑う隻眼の男には全て見通されている気がしてならなかった。

 ◆

 てっきり二班の班員全員で食堂を陣取る事になると思っていたのは、ミーリニアが三班の者達と仲が良いせいかもしれない。
 今カウンター席に腰をかけているのは、ミーリニアとクリストファーとリーゼロッテ、そして彼女の幼馴染の四人だけである。
「他の人は?」と何人か顔を見かけた事のある二班の班員達の頭に浮かべながら尋ねると、「別の店だよ。そんな、三班じゃあるまいし」という勇者様のどこか不機嫌そうな声が降ってきた。
 どうやら、二班は食事をそれぞれ個別に済ますスタイルらしい。そして彼の口ぶりから察するに、毎回大勢で一緒に食事をとる三班の方が特殊なのだろう。

「あはは、俺達他の班員に嫌われてるからね。いつも自然とこの三人でご飯食べる事になっちゃうんだ」
「き、嫌われてないわよ。クリス、その発言はアタイ達だけでなく他の班員にも失礼よ。取り消しなさい」
「でも班長が普段ツンツン強がってるせいで班員に『近寄りがたいなぁ』って思われているのは事実だし、勇者様は勇者様でしょー?」
「……うちの班は単独で行動する事が多いからね。群れるのを好まないのは仕方ないわ」

「ごめんね、賑やかな方が良かったかい?」と問うてくるリーゼロッテに、少女は首を横へと振る。
 もともとミーリニアは人と付き合うのは苦手である。大人数の中に放り込まれ隅のほうで一人で座っている時の方が、独りでいる時よりも寂しい気持ちになる時もある。

「いっそ、三班みたいに樹海で遭難とかしてみれば絆も芽生えるかもしれませんね」
「そんなのごめんだよ……」
「ああ、リーゼ班長が芽生えさせたいのは、絆じゃなくて恋ですもんね!」
「……ちょっと黙ってなさい」
「はーい!」

 第一、今の状況も十分賑やかだ。
 その上彼もいるし……。と、にへりと笑って彼女は左隣を見ようとしたのだけれど、それは叶わなかった。
 先程の彼の知らない横顔が脳裏をチラついて、急に不安になってきたのである。上手く相手の顔を見る事が出来ない。
 たとえば今ここで自分が顔をあげて、もしそこにいる彼が知らない顔をしていたら、なんだか自分はそれだけで、世界の終わりみたいな気分になってしまうんじゃないか。そんな事を考えるミーリニアは、昨夜読んだただ言葉が無闇に装飾されているだけの本に妙な影響を受けてしまったのかもしれない。どんな顔をしてようが、彼が彼である事には変わりがないというのに。
 胸を蝕む妙なもやもやはその後も彼女の体を這いずり続け、食事が出された後も彼と彼女の間に会話が生まれる気配はなかった。
 よし、話そう。彼の方を見よう。と気合を入れてみても、彼女の顔はどうしても彼が座る左隣の方を向いてはくれないのだ。
 勇者様といえば、何やらややこしくて難しくてミーリニアには理解出来ない話(恐らく、仕事の話。だからこそ、わざと他の人には分かりにくい話し方をしているのかもしれない)をリーゼロッテとし始めてしまっているし、ミーリニアは依然として勇者様の方を見る事が出来ず、ただ黙々とそう義務付けられた機械のように規則正しく食事を口に運んでいる。
 耳に入っては抜けていくリーゼロッテの彼との会話が、更に彼から彼らしさを奪っていってしまっているような気さえしてきていた。
 普段ならミーリニアに色々と話しかけてくれるはずの彼が、今の時点で少女に何の言葉もかけてくれないというのも奇妙であった。なんなんだよう。とミーリニアは胸中で唇を尖らせる。なんなんだよう。
 久しぶりに会えたのに、素直に顔すら見る事が出来ない自分が一番、なんなんだよう、だ。
 不意に、ぽんぽんと頭を叩くように撫でられた。一瞬期待しかけたが、彼の撫で方とは違うとすぐに気付いたので『しかけた』だけに終わる。
 見上げた先には、依然として出会った時と変わらぬ笑みを浮かべているクリストファーの姿があった。笑顔の向こうで彼が何を考えているのかはいまいち分かり辛く、ミーリニアの虹の瞳が普段よりもまんまるくなる。
「えっと、」戸惑いがちなミーリニアの声にようやく手を放した男は、そのまま笑顔で言い捨てた。「背が伸びなくなる呪い」ぎゃー!「ぎゃー!」

「クリス、子供をいじめるのはやめなさい!」
「こ、子供……っ!」

 悠々とお茶を飲む事を再開し始めたリーゼロッテは、恐らく自分の発言がミーリニアに追い打ちをかけた事に気付いていない。
 ぐぬぬ、と言葉を失ったミーリニアは、再び自分の頭に誰かの手が乗せられる感触に思わずバッと振り返る。
 その慣れ親しんだ手つきは、間違いなく彼のものだった。先程まで呪われているかのごとく動かなかった首が嘘のように、彼女は今彼の方を向いている。
 ようやく彼女の視界に入る事を許された幼馴染は、やはりいつもの彼女の幼馴染だった。どこも違わない。ミーリニアの好きな彼、だ。

「なんだ、元気じゃないか。体調が悪いせいではなかったんだな」

 何故か左隣に座っていた男はそんな事を言って、安堵するように息を吐いた。
 そのまま、きょとんとしているミーリニアに向かい続ける。

「じゃあ、やっぱりあれなのか? いや、最近帰れなかったのは悪いと思ってるよ。でも、せっかく会えたのにそんなむくれ面されてると、」
「むくれ面?」
「さっきから顔も合わせてくれないし、全然喋らないし、怒ってるんだろ?」

 ……。
 怒っている? つまり、先程から彼がそっけないのは、ミーリニアが自分の事を怒っている(と勘違いした)せいだった、という事なのだろうか。

「ち、ちがうよ!」
「じゃあ何拗ねてるんだよ?」
「拗ねてないよー!」

 横でクリストファーが何やら茶化すような事を言いリーゼロッテに注意されているが、ミーリニアはそれどころではない。
 怒ってはいないし、拗ねてもいない。むしろ、彼が自分に怒っているのではないかという可能性まで考えて始めていたくらいだ。
 けれど、自分が彼の顔を見なかったのも話しかけなかったのも事実で、それは確かに彼に勘違いをされても仕方のない態度である。その件について、どう弁明すべきなのか。ちょっとだけ、ミーリニアは悩んでしまった。

「……あのね、」
「何?」
「お仕事してる姿、かっこよかったよ」
「は……!? し、仕事って言っても、ただいつも通り適当に声かけて話を聞いてるだけだけどな。フラグ立てとかないと、次のダンジョンにも進めないし。っていうか格好良いとか格好良くないとかが、なんでお前の不機嫌に繋がるんだよ」

 明らかに困惑をはらんだ彼の声。みなまで言わずとも全てを察してくれれば楽だが、この男にはそのような芸当など無理な話である。
 ミーリニアはしばし迷った後に、「……んとね、」と一旦間を置いてから、口を開いた。

「でも、いつものきみのほうが、かっこいいよ」

 全く何を言っているのだろう自分は!
 言葉の後半はお茶で流し込んでしまったので、まさにお茶を濁すような言い方に聞こえたかもしれない。そっちのほうが助かるかも、と彼女は思う。
 急に頬が熱くなり、少女の言葉は全てその熱に溶かされてしまったようだ。彼に、それ以上言葉を投げる事が出来ない。
 もごもごと口を動かすミーリニアに、彼は「なんだよ、それ。ばか」と困ったように言って、それでもどことなく嬉しそうな顔をして彼女の頭を撫でるので、ミーリニアの頬の熱はただただ上がるばかりであった。
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