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わたしの■≠きみの■
田村君。トゥニテア+勇者×ミーリニア。

「がんさく?」
「そうだ、贋作」

 久々に彼女の家へとやってきた幼馴染の機嫌がどうにも悪いと思ったら、そういう事なのだった。
 ぺたりと床に座り込みながら仕事で使う塗料をせっせと自作しているミーリニアを椅子に座りながら眺めている彼は、普段の勇者の衣装も取っ払い珍しく軽装である。彼は部屋に入るなり「今日は勇者休み!」と信者が聞いたら「勇者に休みなんてないですよ!」と即答されそうな事を言い放ったのだが、ゲームと現実の区別は相変わらずついていないらしく、今日も今日とて「お前を見ているとヒットポイントが回復する」とわけの分からない事を宣っていた。
 そんな彼の口から、珍しく出てきたまともな話題がそれである。
 彼は、どこかの村でミーリニアの作品の贋作を見たらしい。彼女が仕事で描いたイラストや文字を、そっくりそのまま真似をしたもの。ミーリニアのものによく似た、でも彼女のものではない何か。
「へー」とミーリニアは他人事みたいにその話を聞いて(彼女自身が実際に見たわけでもないので、どうにも自分が話の渦中にいると認識し辛かった)、首を傾げる。

「ねぇねぇ」
「何?」
「わたしのを真似してどうするのかな?」
「そういう事をやって、儲けようとする奴が世の中にはいるんだよ」
「えー、自分で描けないなら意味ないと思うんだけどなー」

 ミーリニアは描きたいから描いていて、それがいつの間にかお仕事になっていてお金を貰っているだけなので、彼女とは逆の人間、お金のためにものを描く人の気持ちは少し分からない。
 幼馴染の青年は、「お前はそういう奴だよ、昔っから……」とでも言いたげな目で彼女を見て、耐え切れずその思いを溜息として世界へと吐き出した。

「一応一部じゃ話題になってるんだけどな。なんで当事者が知らないんだよ」
「ごめん、ちょっと最近集中したくて……。外界との交流を避け自身の殻にこもり、更なる進化の時を待っていた」
「俺好みの言い方をするな!」

 一通り今日の予定も済んだので、立ち上がって手を洗いに行ってふかふかのタオルでそれを拭い、当たり前みたいに彼女は幼馴染の元へと行った。
 そして、当たり前みたいに彼は彼女を膝の上に乗せて(実際当たり前だった)、その空色の髪を手で掬う。「はっ! これはなんという甘いひと時なのだろう!」と彼女は思ったのだけれど、自身の頭を撫でる彼の仕草は恋人に対するあれとかそれとかではなく、どちらかというと子供を撫でる手付きに似ていた。でも別に、ミーリニアはそれが嫌いじゃない。

「わたしって、どっちかっていうとこの界隈じゃマイナーなほうだと思うんだけどなー。こんなんでちゃんとその人、お金貰えたのかな?」

 彼女達の間にある話題は、未だ例の贋作の件だ。
 ミーリニアの心配は、妙にズレている。実際に自分が見てないものの事で怒ったりとか悲しんだりとか、そういう事をしないような奴なのだ。
 ふらふらと足を前後に揺らしている彼女の思考は、多分青年の予想のつかぬ場所で息をしている。

「マイナーって……。お前、この前どこかの村の教会を、全部お前色に染め上げた事があっただろ」
「ああ、教会中に絵や文字を描きまくった時だよね! うん、あれは楽しかった!」
「楽しかったのなら何よりだけどもさ。それだけの仕事を任された事もあるんだから、お前は結構それなりに凄いと俺は思うけど……」

 どうやら、ミーリニアは彼に褒められているようだった。ありがとー、とお礼を言いたい気分だけれど、言ったら絶対彼は大人げなく拗ねるので胸に仕舞っておく。
 しかし、教会のお仕事(それは近所の村の小さな小さなチャペルであり、そこの管理者は彼女の作品にどうやら惚れ込んでくれたようで、彼女は壁や天井に好き勝手ものを描いて良いと言われ嬉々としてその仕事を遂行したのだった)をしたのはついこの間の事で、まだあまり人にも言っていないはず。それを知っているとは、この男……

「きみってば、わたしの仕事を一から十まで全部チェックしてたりするの?」
「バッ……勇者がそんなストーカーじみた事をするわけないだろ!」

 素直に思った事を問いかければ、微妙に裏返った声が返ってきた。
 数秒間の沈黙。彼女は知っている、この男が嘘を吐く事が得意ではない事を。
 現に、静寂の後に呟いた彼の言葉には、言いにくそうではあるけれども確かに真実が含まれていた。

「まぁ、ちょっと気になるから、たまに調べたりはしてるけど」

 えへへ、と笑うミーリニアに男は「笑うな!」と怒る。どう見ても照れ隠しだ。
 ミーリニアよりずっとずっと大きな彼にこんな事を言うのもあれだが、けれどもやっぱり、「きみってかわいいなぁ」。
 少女の無垢な笑顔と自分にはあまりにも似合わない四文字に幼馴染は言葉を失い、そのまましばらく口を魚のようにぱくぱくと動かすだけの生物と化した。

 ◆

「へー」とやっぱり、他人事みたいにミーリニアは呟く。彼女の前の壁には、大きな絵が描かれていた。例の贋作がある村へと、彼女はやってきたのである。
 確かにそれは、ミーリニアが以前描いたものと疑似している。しかし、

 ――やっぱり、違うなぁ。

 それは確かに似ているのだけれど、似ているだけで、ミーリニアの描いたそれはやはり違うものなのだ。
 ミーリニアがこれの元となったものを描いた時に込めた、想いやら何やら。そういう頭の中や胸の中に詰まっていたぐっちゃぐちゃとしたものが、これからは全く見えてはこなかった。
 ある意味、綺麗だな、とは思う。けれど綺麗なだけだな、なんて。
 同時に、想いがこもっていない自分の作品というものは、こういうものなのだという事も知る。
 今後は、今まで以上にいっぱいいっぱい色々考えながら描こう。と、心に決めたりなんかもした。今回の件は、一歩前進する良いきっかけになったかもしれない。なんて言ったら、「どこまでポジティブなんだよ!」と某神様には怒られるかもしれないが。

 それでも、ちょっとだけ悲しい気持ちになったのも本当だ。
 だから彼女は、次に自分が描く事となった作品に、ほんの少しだけ細工を入れた。細工と言っても、ただ単にその贋作家へのメッセージのようなものを作品の隅っこに混じらせただけだが。
 相手がこの作品を見るとも、この言葉に気付くとも、これで贋作をやめるとも限らないが、それでも何かが伝われば嬉しいなと彼女は思った。
 その言葉は他の模様や文字の波に溺れかかっていたが、これもこれで確かに、ミーリニアの想いであり作品である。

『これはわたしの。これは、わたし』

 これはミーリニアが描いた、ミーリニアの気持ち。ミーリニアの一部。彼女の魂の一欠片。
 だから、きみにはあげる事も貸す事も出来ないんだ。ごめんね。
 そのメッセージが相手に果たして伝わったのかどうかはミーリニアには分からないが、それからというものめっきり贋作の噂は聞かなくなった。



 ある日の事。勇者様が、「シキ! 新イベントの予感だ!」と彼女に通信機で連絡を寄越す。彼はとある村で、不思議なものを見たという。
 その村にあったミーリニアの描いたある作品の上に、走り書きの文字で『分かった。これは貴女』と一言大きく書いてあったのを彼は見たらしい。けれど不思議な事に、その文字は彼が瞬きをした瞬間に残り香すら残さずに消えてしまったのだ。
「あれは何だったんだろうな……。何かのフラグが立った気がする……。それに、あの言葉の意味はいったい……。何かのヒントなのか……?」と通信機の向こうで一人考え込み始めた青年の声を聞きながら、ミーリニアはくすりと笑った。
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