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眠れないままのあの子
お題配布元⇒約30の嘘

田村君。ミズハシ+ミーリニア。

 どうにもならない状況になってしまって、何をやろうが先に進めない。人はこれを、『詰み』と言う。
 あそこで、セーブなどしなけれは良かった。おかげで、何時間もの苦労が水の泡だ。
 仕方ないからリセットボタンを押して、『最初から』。再び始まる、勇者様の大冒険。
 けれど、そこにいる勇者は、今まで操作していた勇者と本当に同じ人間なのだろうか?

 ◆

 俺は酒場のテーブルに乱雑に置かれていた、誰かの忘れものであろう新聞でそれを知った。
 紙面に浮かんでいた文字は俄かには信じがたく、しばし目を見張る。
 ――勇者が死んだのだという。
 勇者とは死ぬような生き物だったのか、と妙に肩の力が抜けた。彼の顔は知っている。話をした事がある。知人の死には、やはり慣れない。
 それに、彼は一応、神様のような存在だったのではないだろうか。街にはいつも通りの喧騒が溢れ、けれどもそれはやはり『いつも通り』でしかなく、誰一人として大げさに騒いでいやしない。
 隣の椅子に座っていたカプリットさんが、「まぁ、その内新しい勇者が選ばれるからな」と、ふわぁと欠伸をした。
 そのままむにゃむにゃとしながら、「『勇者』は影武者のようなものなのだよ、神様の。神様の代わりに、危ない事をやって世界に平和をもたらしてくれる。勇者は死んでも神様は死なないから、特に問題ない」なんて彼女は続ける。

「眠いなら、先に帰っても大丈夫ですよ」
「帰るって、どこにだ。どこに帰れと言っているんだ」
「宿にですよ」
「ミズハシは、私と一緒に宿に泊まりたくて仕方ないらしい」
「誤解を招くような言い方しないでください」
「勇者は案外死にやすい生き物なんだ。今回は、比較的長生きしたほうだと思うぞ」

 恐らくそれは彼女なりの気遣いの言葉だったのだろうけれど、あまりにも不器用すぎて俺は彼女に上手く慰められる事が出来なかった。
「ああ、はい」なんて返したけど、何が「はい」なのかも分からない。むしろローだ。完全にローテンション。


 少し前に、ある女の子に会った事がある。空みたいな髪をした女の子で、小さい体で世界を描く。魔法使いみたいな人だった。
 勇者様の幼馴染だという事を、俺は彼女と散々話をした後の別れ際に知って、そんな凄い人と俺は今の今まで話をしていたのかと驚いてしまった。
 そんな俺に、彼女はおかしそうに首を小さく横に振って、否定するように手をフラフラと左右に動かす。

『あのね、あの人勇者だけど、本当は凄いドジなんですよ。ぜんぜん、凄くないんですよ』

 照れ屋で、人に自分の事を見られるのは本当はちょっと苦手なのに、頑張ってるんですよ。
 どちらかといえば、大人しい子のように思えたのに。その瞬間だけパッと明るくなって、まるで本当に、空に虹がかかったみたいに明るくなって。
 彼女は笑っていたけれど、俺にはその姿がどこか寂しげに見えた。
 無意識の内に口に出した「大丈夫?」という問いに、彼女は虹色の目を白黒させ、やっぱり笑う。

『えっと、だ、大丈夫です。……たぶん』


 勇者様は死んだ。しかも自殺ときた。死に方は知らない。そこまでは書いていない。
 彼は、自分でリセットボタンを押したという事だろう。死んでも『最初から』なんて文字、どこにも転がっていないのに。
 物思いにふけっていたら、ぐいっと腕を引っ張られる。不貞腐れた顔をしたカプリットさんが、その表情に見合う不機嫌な声音で吐き捨てる。

「ミズハシは先に帰れとか言う。ミズハシと一緒に帰りたいのに」
「仕事の話があるんですよ」
「一人で宿に帰っても仕方ない。ミズハシがいないと眠れない」
「なんで」
「寂しいから」
「はいはい」

 仕方ないので、彼女の頭を膝の上に導いてあやす。これからここで客と依頼の話をするというのに、全く、この人について何と説明すれば良いのだろう。いっそ、素知らぬフリでシラを切り続けてやろうか。
 俺は新聞を畳んで、すやすやと寝息をたて始めた少女の髪を撫でる。一人じゃ眠れない、寂しがり屋の少女。


『あの、あの人有名人だから、新聞とかテレビとかでもすぐに活躍を見れて、そのたびにわたしはわー凄い!って大興奮だし……』

『それに、帰ってきたらやってほしい事いっぱいいっぱいあって、何でもしてくれるって約束したから、わたし、その日はむしろ「いってらっしゃい」っていつもより元気にぶんぶん手振っちゃって……。だから、大丈夫です』


 俺の記憶の中、どのシーンを切り抜いても女の子は笑っている。
 彼女は、この事をもう知ったのだろうか。それとも、まだ知らないままで、一人の部屋で彼の帰りを待っているのだろうか。
 街はいつも通りの喧騒。俺の膝の上で眠る愛しい少女。客との待ち合わせの時間まで、まだあと三十分以上ある。神様の代わりが死んでも、それでも何一つ変わらない。
 あの子、今どうしているのかな。すっかりぬるくなったウーロンティーを飲み干しながら、そんな事を考えた。世界に勇者のいない時間。
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