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7+α色の恋文
田村君。学生クフカ兄姉+ミーリニア。

 姉さんが大量の絵の具を買って帰ってきたのは、俺とシキがうちに先日泊まった客に教えてもらった『オリガミ』という遊びに四苦八苦している時だった(これ、難しい。何度やっても鶴にも花にもならない)
 彼女は「はい」と自然な動作でそれを俺に押し付け、「兄さん、ちゃんとやる事やってから遊んでるの?」と説明もなく話題を小言へと切り替えようとする。
 ぶらりと俺の手に垂れ下がっている袋の中には、数十の色。大量の色。色々。

「これは何だよ?」
「絵の具」
「それは見て分かるよ! うちの模様替えでもするのか? 替えたところで、こんな田舎の村の宿屋に訪れるのは勇者くらいなもんだろう。つまりは俺だけだよ」
「兄さん、それ名案よ。模様替え。じゃあ、次はペンキを買ってくるわね」

 心底感心した声で相手が言うので、俺は肩をすくめるしかなかった。姉は微妙に抜けているので、どこまで本気で言っているのかが分からない。
「シキちゃんただいま」姉の言葉に、シキは無言でぺこりと頭を下げる。先日知り合ったこの少女は、諸々の事情で声を出す事が出来ないのだ。
 そんな彼女の様子を見ながら、頬に手を当てた姉さんは「うーん」と呟き、続ける。

「やっぱりまだ声は出ないみたいね。まぁ、焦る必要はないわ。ゆっくりで良いのよ。これもそのために買ってきたんだし」
「そのためって?」

『これ』というのは、絵の具の事らしい。
 ふらふらと袋を揺らしながら尋ねてみたが、彼女からは明確な返答はなかった。姉さんは俺の問いをげしりと無言で蹴飛ばすと、袋の中から一本の絵の具(赤色だ)を取り出して、シキの顔の前で左右に振ってみせる。虹色の瞳は、興味深げにそれを眺めていた。

「シキちゃんシキちゃん。赤色が『あ』ね」
「……なんだそれ」
「兄さんには言ってないわよ。あ、でも兄さんも覚えてくれなきゃ困るわ」
「うわ、覚えゲーかよ。そういうイベント苦手なのに……」

 苦い顔をする俺に「兄さんはそればっか」と呆れるように言ってから、姉はようやく説明を始める。

「だからね、シキちゃんまだ声出せないでしょう? でも、文字だってまだ全部はちゃんと覚えきれてないし、ふとした時に言いたい事を私達に伝えられないのはもどかしいと思うのよね。だから、しばらくの間は色の描かれたカードを文字の代わりにして、お話してもらおうかと思って」

 色にそれぞれ文字を当てはめて三人でその組み合わせを覚え、コミュニケーションをとるのだと彼女は言う。
 緑色を『ご』と決め、黄色を『は』と決め、桃色を『ん』と決めた場合、緑と黄色と桃色で塗りつぶされたカードを一枚ずつ掲示すれば『ごはん』という言葉になる。要するに、姉は色を文字に見立て俺達三人にだけ通じる新種の言語を作りたいようだ。が、どうにも俺は腑に落ちない。

「それを覚えるなら、文字を覚えるほうが早いし役に立つと思うんだけど……」
「そう? こっちのほうが、カラフルで楽しいから覚えやすいわよ」
「まどろっこしい事はしないで、絵を描いたカードとかを出してもらえば良いじゃないか」
「それだと、絵として描かれている事しか言えないじゃない。これのほうが色々と自由が利くわよ。それに、これなら私達にしか分からない秘密のメッセージとかも書けるし」
「書いてどうするんだよ」
「秘密にするのよ」

 しれっとした顔で言う姉にツッコミたい事はいっぱいあったけれど、彼女の頑固っぷりを知っている身としてはこの人がちょっとやそっとの説得で大人しくなるとも思えず、むむむと押し黙るしかなかった。「お前にも苦労かける」と目でミーリニアに訴えてみたが、彼女は俺のほうなど見ておらず赤色の絵の具に夢中である。存外それが気に入ったようだ。
 これが効率の良い方法じゃないと分かれば姉もすぐに諦めるだろうし、もしかしたら良い方向に転がる何らかのきっかけにはなるかもしれない。考えた末に「はい」を選んだ俺に姉は嬉しそうに笑って、「じゃあまずは、『エ』の色と『マ』の色と『ン』の色と『セ』の色を決めましょう」と宣った。も、もっと他に大事な言葉はいっぱいあるだろうが!

 ◆

 シキが文字と色の組み合わせを覚えるのは俺が思っていた以上に早く、数日後には彼女は見事に色の文字を使いこなしていた。俺のほうが、覚えるのに時間がかかってしまったくらいだ(覚えた後もよく間違えては、姉に訂正される羽目となった)
 その上普通の文字の勉強もちゃんとやっているのだから、健気すぎて涙が出てきそうになる。というか出てきた。「兄さん。何、父性に目覚めているのよ」と姉は笑顔で言ってきたが、別にそんなものに目覚めた覚えはない。
 それから大分年月を重ねて、普通の文字を覚えたし声も発せるようになったシキには、もう色の言語は不要になった。けれど彼女は未だに、時々ではあるけれど俺や姉さんだけに分かる秘密のメッセージを、悪戯で呟くのだ。


 魔女達のところから一日ぶりに村に帰ってきたら、自分の家が全然知らない色に染まっていた。今までは村の隅にある寂れた宿屋だったはずなのだが、今は壁一面に何やら芸術的な絵が描かれカラフルな佇まいである。なんでだよ。
 風景師なんて頼む金、うちのどこにあったんだろうか。というか、俺に一言くらい相談してほしかった。

「姉さん! 姉! エフィレ!」

 いつもより怒気を強めて言うと、庭先からひょっこりと見慣れた白い髪が顔を出した。
「なぁに、兄さん」兄さんの留守中も何も変わった事は起こりませんでしたわよ、といった様子で彼女はニコニコと微笑んでいる。

「『なぁに』って、お前、これ……! これ!」
「あら、兄さん。何を言ってるのか分からないわよ。ついに『はい』『いいえ』以外の言葉は、まともに喋れなくされちゃったの?」
「ブラックジョーク……! 違うよ! 何、俺の家どうなっちゃったの? 何があったの?」
「やぁね。前に模様替えするって言ったじゃない」

 言ったような言ってなかったような……ああ、言った。もう何年も前の話じゃないか。
 あれ、本気だったのか……。

「……良かった。別に私が心配する必要はなかったみたい」

 言いたい事が多すぎて黙ってしまった俺の横に立ち、すっかり華やかになった我が家を眺めながら姉さんは安堵したように呟く。

「何が?」
「昔、シキちゃんが喋れない時に、色を文字に見立てた事があったじゃない?」

 黙って頷く。頑固な姉に振り回されるのは当時からよくあった事で、その色の文字も彼女の暴走の一つだった。今にして思えば、もっと簡単な方法はたくさんあっただろうに、どうしてあんなに時間も手間もかかる方法を選んだのか。連日連夜色と睨めっこする事となった当時の事を思い出すと、自然と俺の顔は苦いものとへと変わってしまう。

「荒治療になるかもしれないけど、私ね、色を嫌いになっちゃったら困るなと思って。『これ』が原因で自分は嫌われてる、って思っちゃって、あの子が色に苦手意識を持っちゃうの嫌だったの」

 姉はちょいちょいと自身の目を指した。そこには見慣れた桃色があるだけだが、姉が言っているのは別の奴の瞳の話だという事はすぐに分かった。

「これは好きなままでいてほしかったのよ。だって、」
「綺麗だから?」
「そう。世界は綺麗な色で溢れているから。だから、少しでも色を身近で便利で楽しいものにしたかったのよね」

 どうやら、あの姉の暴走にも一応姉なりの意図があったらしい。初めて知った。姉も一応、色々考えているのか(と言ったら怒られるだろうから言わないし顔にも出さないように努める)
 顔が苦いものには変わってしまうけれど、それは自分の覚えの悪さを思い出すせいであり、あれを悪いものだったとは思っていない。彼女が俺達に捧ぐ言葉はどんな色であれ俺にとっては特別なものになったし、三人だけで秘密を共有する事は楽しかった。今まではさして興味がなかった色というものに、俺も惹かれるようになった。あの頃の事は、俺にとっては大切な思い出の一つだ。

「じゃあ、あいつが今色が好きどころか、好きすぎるくらいなのは姉さんの賜物ってわけだ」
「んーん、そうでもないわね。あの子にはもともと、そういう素質があったみたい。私のとり越し苦労だったのよ。見て、これ。うちの壁の絵」
「見てるよ」
「シキちゃんが描いたのよ」
「嘘!?」
「ホント。将来風景師になれるかもしれないわねー」

 驚く俺にふふっと得意げに姉は笑って、「じゃあ私、今から行かなきゃいけないところがあるから」と軽快な足取りで去っていく。一人残された俺は、より集中して眼前の絵画に臨んだ。自然と感嘆の息がもれる。
 確かに昔から絵が上手かった気がするが、まさかこれ程とは。風景師になれるかもしれないという姉の言葉も、あながち誇張とも言えないだろう。
 端から端まで描かれた大作に見惚れている時、あるものが俺の視線を奪った。隅の方に描かれていた、寄りそうように並ぶ二つの虹。どうにもそれは、よく見かける虹とは色の数も配色も違うのだ。

『私達にしか分からない、秘密のメッセージとかも書けるじゃない』

 この色がなんという文字か、この虹がなんという言葉を表しているのかは、すぐに思い出す事が出来た。かつて、彼女がよくこちらに向かって見せてきた配色だったからだ。
 姉はまだこれに気付いていないのだろうか。それとも、気づいたけれど照れ臭がって知らないフリを決め込んでいるのだろうか。恐らく、後者だろうなと思う。
 立ち去る時の姉はいつも以上に上機嫌だったし、その足は彼女の家の方へと向かっていたからだ。きっと今頃あの空色の少女は、うちの姉にわけが分からないままぎゅっぎゅっと抱きしめられている事だろう。
 手を伸ばして触れる。仲良く並ぶ、八色と五色。愛しい色の虹。

『えまんせ えふいれ』と、『みーりにあ』
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