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パレードの離陸
お題配布元⇒約30の嘘

田村君。ボス×ミーリニア。

 その目、魔物の目。

 そう言われて、やるはずだった仕事を断られた。何も珍しい事ではない。
 その男は、ミーリニアに関する噂を恐らくどこかで聞いたのだろう。ある日、手紙でミーリニアに依頼を申し出てきた。顔も知らない相手に依頼をされるのも、よくある事だった。
 彼女はそれを快く承諾し、何時間もかけて、お金もかけて、男のいる街へとやってくる。男はある路地の壁に絵を描いて欲しいらしくて、彼女はその場所で男と待ち合わせる。狭い路地に、街中の喧騒が遠く響いていた。
 でもその人は、その時その瞬間までニコニコとしていたのに、ミーリニアの目に気付くなり急に怖がってしまって、ミーリニアのお仕事はこれまた急になかった事になる。
 それだけなら、ミーリニアも「まぁ、そんな日もあるか」で済ませて、知らない街でミーリニアはお仕事以外にしたい事もする事もないし、長い時間をかけてまた家へと帰るだけなんだけれど、どうにもその人はミーリニアの目が気になって気になって仕方ないらしく、お仕事がなくなった後も何やら騒ぎ続けている。
 唇を噛み締める事も握り拳を作る事もせず、少女はただ黙ってそれを聞いていた。時折笑みさえ浮かべてみせて、はい、と素直な子供みたいに頷いてまで見せるのに、男はそれが更に気に食わないみたいでヘラヘラしてるんじゃない!と更に声を荒げる。幼馴染にだって怒鳴られた事な……いや、あったか。なんて、ミーリニアはこんな時に彼の顔を思い出して、無意識に安心してみたりした。
 ミーリニアは、目の前の男の人の顔を、まるで遠いところの人のように見ている。今怒られているのは自分のはずで、今彼が色々言ってきているのは自分に関する事なのに、違う世界で起きている事のように彼女には思えて、今彼女が思う事と言えば、「暗くなる前に帰れたらいいなぁ」くらいなもので。
 何を言っても無駄だよ。無駄。きみが何を言おうが、わたしの心には傷一つつけられないよ。
 どこか、相手の事を見下している。そして自分の事も。
 自分自身なのに、ミーリニアはずっとずっと高いところから、ミーリニアを見下ろして笑っている。けれども、ずっとずっと下にいるミーリアも、ミーリニアである事には変わりがない。

 その目、魔物の目。

 ミーリニアは、誰かに何かを言われるのは結構慣れている。だからあんまり驚いたりはしないんだけれど、その言葉にはちょっとだけ、驚いた。
 魔物の目とな! 何をバカな!
 彼女の目は、七色に光る。角度によって違う色を見せる。ミーリニアは、自分と同じような目を持つ人を知らない。
 自分と似た目を持っているものなど、恐らく魔物にだっていないだろう。
 ミーリニアは人とは少し違う。魔物の仲間にすらなれない。じゃあ、ミーリニアとは、何なんだろう。人にも魔物にもなれない、ミーリニア。

『シキはヒロインだよ』

 記憶の中であの人が言う。シキはヒロインだよ、俺のヒロインだよ。物語の中にしか出てこない言葉を、彼は平気で口にする。恥ずかしくておかしい事、みんなが笑う。今回の勇者様は、少し頭がおかしい。ゲームのしすぎだ。子供染みている。みんなが、笑う。
 けれど、彼の一言で、人でも魔物でもないミーリニアは晴れてヒロインになった。だからミーリニアは彼の言葉に、「うんっ!」って頷く。力いっぱい、全力で頷く。
 何かが風を切って、ようやくミーリニアは自分が未だ謎の(それはミーリニアにとっては何の意味にもならないので、本当に謎の)説教をされている最中だと思い出した。男の理不尽な怒りはまだおさまっていなくて、恐怖を孕んだ瞳がミーリニアを捉える。相手の腕が振り上げられている事にミーリニアは気付き、少々彼女は慌てた。
 言われるのは良い。言われたところで、何も残らない。けれど殴られれば、その痕はしばらく残るだろう。それはいけない。彼が心配する。彼がきっと、最初は驚いて、怒って、そして悲しむ。それが少し、ミーリニアは嫌。
 ぎゅっと目をつむり、身構える。顔を庇うように腕を上げる。小さな体に衝撃が襲い掛か……らない。
 目を開けたら、男がいなくなっていた。き、消えた!ビックリしたけれど、すぐに足元に男の体が転がっている事に気付く。
 いつの間にか近くにいた金髪の青年が、右手で握り拳を作りながら、左手で転がる男を指さし、わなわなと震えていた。

「ふふふふふ婦女暴行は重罪だぞテメェ!」

 この青年がどうやら、男の事を殴り倒してくれようだ。助かったけれど、その後もその後も青年は男の事をゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシと腹立だしげに蹴っていたので、ミーリニアはさすがに「も、もうやめてあげてー」と止めざるを得なかった。
 けれど青年は「ア゛? オレっちがムカつくから蹴ッてんだよ、テメェは関係ねぇ! 引っ込んでロ!」とか、当事者のはずのミーリニアを事件の渦中から外へと放り投げる。どういう事なの。
 でも死んじゃうから。さすがに死んじゃうから。困っているミーリニアに、助け舟が現れた。「そこの空色の髪の少女、待たせたわね!」そんな声が、路地に響く。
 見てみると、白い髪をした女の子が腕を組んで立っている。覚えがないのだが、ミーリニアは彼女に待たされていたらしい。
 バッ。黒いマントが翻り、女の子がポーズを決める。

「ハイカードレッド!」

 ポカン。
 わけが分からず固まっているミーリニアなど気にも留めず、金髪の青年もようやく蹴っている足を止めてポーズをとる。

「ハイカードイエロー!」
「ハイカードピンク~」
【ハイカードブルー!ヽ(><*)ノ】

 ポカン。
 いつの間にか人が増えている。

「そして、今日は知人の結婚式で事務所を欠席しているハイカードグリーン! 五人揃っていないけれど、アタシ達は……正義の使者、ハイカードよ!」

 ポカン。
 最後に四人が一列に並び、彼らの背後で謎の爆発が起こり五色の煙が巻き上がる。
 これは……、これは、なんだろう。
 先程まで確か自分は男に怒られていて、もやもやと色々と考えていたはずなのだが、その空気はいったいどこに行ってしまったのだろう。

【はっ!Σ(・□・;)なんだか、シリアスな空気をぶち壊しちゃった感・・・!】
「シリアス? 何それ食べれるわけ? 少なくとも、うちの奴らの好物ではないわね!」
「どうせなら、もっと甘くて美味しそうなものが食べたいわ~」
【あの子大丈夫?ヤスくん、大丈夫かどうか聞いちゃいなよー。フラグ立てちゃいなよー】
「ハァ!? お前何言ってンのマジ意味不。べべ別にオレっちはそーいうのを期待してこいつを助けたわけでもネーし! ッつーか助けたわけじャねーシ!」

 白い髪の女の子が、「アンタ大丈夫? 安心しなさい。悪はもう倒したわ」とか男を足蹴にしながら言う。あの、本当もう十分だと思うのでやめてあげてください。
 ミーリニアはまだビックリしてバクバク言っている胸に手を当てて、ようやっと本来の表情を取り戻した。

「大丈夫です。ありがとうございます……」
「ふふん、何よりだわ。……あら?」

 何かに気付いた女の子が、ちょこちょこと動きながら色々な角度からミーリニアを見始める。
 あ、目に気付いたんだな、って。別に、そんなに大した事じゃないのに、ちょっと所在なさげに視線をさ迷わせる虹色の子。
「ふぅん」一通り彼女の事を見終えた女の子は、左手で自身の顔を覆った。そして、「ふふっ……ふふふふっ……」と何やら一人で笑い始める。

「分かったわ、アタシは全てを理解しちゃったわ」

 理解してしまったらしい。

「さすがボス! 恐らく何一つ理解出来ていないンだろーけど、ボスが次のセリフを吐く前なら褒めてもセーフ! ボスを褒めれんのは今だけ!」
「この虹色の瞳。間違いないわ。この子はつまり……ハイカードレインボーよ!」
「ほらナ! さすがボス! 悪い期待だけは裏切らない!」
【レ イ ン ボ ー (笑)】
「オイ、笑ッてんじゃねーぞ、ブルー! ボスの事なめてんのか、テメェは!」
「あら~? 虹色なの~? 見てみたいわ~」

 何やら楽しげに会話をし始めた彼らに、ミーリニアは笑う。
 笑う。笑う。わらわら。笑い!
 そう、彼女は笑っている。笑っているはずなのに、何故か白い髪の女の子はお腹が痛いみたいな顔をして、「アンタ、なんて顔をしてるのよ?」と不可思議な事を言い出す。
 わけが分からず、再度ポカンタイムに入りそうになっているミーリニアに、彼女は手を差し出した。
 髪と同じ白い瞳で相手を射抜きながら、女の子は虹色の少女を誘う。白と虹。一見対極に見える色を持つ二人が、今ここで向かい合っている。
 そしてミーリニアは、次に彼女が吐き出す言葉に一瞬虚をつかれつつも、相手の手を取るのだ。

「きなさい、ハイカードレインボー。このスーパーヒーローハイカードが、全力でアンタを笑顔にしてあげる」
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