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新月の夜にふたりは
かつて私に「月が綺麗ですね」と微笑んだ男は、もうこの世にはいない。
正確には、その時すでに奴はいなかったのだ。私が見たそれは、彼の抜け殻、幻影のようなものだった。
「いや、あれはゾンビですよ、ゾンビ。バイオハザードみたいな」
見知った少年がそう言う。だからあれは、恐らくぞんびでばいおはざーど(はて、ばいおはざーどとは何ぞ。『みたい』と言われても、いまいちピンと来ない)だったのだろう。
何であろうと、奴はもういない。どこにも。
死んだ人間は燃やして埋めるべきなのだけれど、動いて回るそれは大人しく土の下で眠ってくれそうもない。時折私の前に現れて、生者みたいに笑う。私と奴が並ぶと、どちらが死人だか分かりやしない。
今日の月明かりは心もとない。辺りは暗いから、少年にも死者と生者の区別がつかないかもしれない。その時、私は恐らく埋められてしまうのだ。
ぽろぽろ。
「ほら、また泣く」
と困ったように笑って、少年が料理の手を止めて私の傍にくる。
他に誰もいない。新月の夜にふたりはふたりぼっちだ。昨日もそうだったのに、私はまだそれに慣れる事が出来ない。
本当に、ふたりは『ふたり』ぼっちなのかも確証する事が出来ず、私は私が生きている事を主張出来ない。
彼は私のせいで、ひとりぼっちなのかもしれない。ふたりは、ひとりぼっち。
そうして、子供みたいに、私はぽろぽろと泣いて。困らせると分かっているのに、彼の手を握り締める。
お月様が細い。私のせいで野営の準備は進まない。少年の手は温かく、彼は生きている。ゾンビでもばいおはざーどでもなく、私の知っている彼であり続ける。
……いつか言おう。
僅かに見えるあの光がまあるくなった時に、「綺麗ですね」、と。一言だけ言おう。今、この手の先にいる人に。
それが愛を語る言葉だと、私はもう知ってしまったのだから。
正確には、その時すでに奴はいなかったのだ。私が見たそれは、彼の抜け殻、幻影のようなものだった。
「いや、あれはゾンビですよ、ゾンビ。バイオハザードみたいな」
見知った少年がそう言う。だからあれは、恐らくぞんびでばいおはざーど(はて、ばいおはざーどとは何ぞ。『みたい』と言われても、いまいちピンと来ない)だったのだろう。
何であろうと、奴はもういない。どこにも。
死んだ人間は燃やして埋めるべきなのだけれど、動いて回るそれは大人しく土の下で眠ってくれそうもない。時折私の前に現れて、生者みたいに笑う。私と奴が並ぶと、どちらが死人だか分かりやしない。
今日の月明かりは心もとない。辺りは暗いから、少年にも死者と生者の区別がつかないかもしれない。その時、私は恐らく埋められてしまうのだ。
ぽろぽろ。
「ほら、また泣く」
と困ったように笑って、少年が料理の手を止めて私の傍にくる。
他に誰もいない。新月の夜にふたりはふたりぼっちだ。昨日もそうだったのに、私はまだそれに慣れる事が出来ない。
本当に、ふたりは『ふたり』ぼっちなのかも確証する事が出来ず、私は私が生きている事を主張出来ない。
彼は私のせいで、ひとりぼっちなのかもしれない。ふたりは、ひとりぼっち。
そうして、子供みたいに、私はぽろぽろと泣いて。困らせると分かっているのに、彼の手を握り締める。
お月様が細い。私のせいで野営の準備は進まない。少年の手は温かく、彼は生きている。ゾンビでもばいおはざーどでもなく、私の知っている彼であり続ける。
……いつか言おう。
僅かに見えるあの光がまあるくなった時に、「綺麗ですね」、と。一言だけ言おう。今、この手の先にいる人に。
それが愛を語る言葉だと、私はもう知ってしまったのだから。
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