忍者ブログ

オリジナル中心。お題攻略もしてます。

   
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

新月の夜にふたりは
お題配布元⇒ミシェル

田村君。まだ公開されていない本編のネタバレあり。

 かつて私に「月が綺麗ですね」と微笑んだ男は、もうこの世にはいない。
 正確には、その時すでに奴はいなかったのだ。私が見たそれは、彼の抜け殻、幻影のようなものだった。

「いや、あれはゾンビですよ、ゾンビ。バイオハザードみたいな」

 見知った少年がそう言う。だからあれは、恐らくぞんびでばいおはざーど(はて、ばいおはざーどとは何ぞ。『みたい』と言われても、いまいちピンと来ない)だったのだろう。
 何であろうと、奴はもういない。どこにも。
 死んだ人間は燃やして埋めるべきなのだけれど、動いて回るそれは大人しく土の下で眠ってくれそうもない。時折私の前に現れて、生者みたいに笑う。私と奴が並ぶと、どちらが死人だか分かりやしない。
 今日の月明かりは心もとない。辺りは暗いから、少年にも死者と生者の区別がつかないかもしれない。その時、私は恐らく埋められてしまうのだ。
 ぽろぽろ。

「ほら、また泣く」

 と困ったように笑って、少年が料理の手を止めて私の傍にくる。
 他に誰もいない。新月の夜にふたりはふたりぼっちだ。昨日もそうだったのに、私はまだそれに慣れる事が出来ない。
 本当に、ふたりは『ふたり』ぼっちなのかも確証する事が出来ず、私は私が生きている事を主張出来ない。
 彼は私のせいで、ひとりぼっちなのかもしれない。ふたりは、ひとりぼっち。
 そうして、子供みたいに、私はぽろぽろと泣いて。困らせると分かっているのに、彼の手を握り締める。
 お月様が細い。私のせいで野営の準備は進まない。少年の手は温かく、彼は生きている。ゾンビでもばいおはざーどでもなく、私の知っている彼であり続ける。

 ……いつか言おう。
 僅かに見えるあの光がまあるくなった時に、「綺麗ですね」、と。一言だけ言おう。今、この手の先にいる人に。
 それが愛を語る言葉だと、私はもう知ってしまったのだから。
PR
  
カレンダー
08 2017/09 10
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
ブログ内検索
バーコード
カウンター
P R
Copyright ©  -- 短編置き場 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]