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プラシーボヒット・ポイントプラスヒャク
田村君。エフィレ+勇者様(×ミーリニア)

「馬鹿ねー」

 とケラケラ笑いながら、姉さんは棚に向かう。別に、たかだかそんな言葉で不貞腐れる必要などないのに、頭が上手く回らないせいか俺は大人げなく拗ねてみせたりする。
 姉さんはそれがおかしいのか更に笑って、けれど風邪薬を手に振り返った顔は、少しだけ眉を下げていた。
 彼女は俺に薬を手渡してから、向かいのソファへと座る。テーブルに置かれた対のカップの一つを手に取り、最近お気に入りの紅茶を優雅な動作で口へと届ける。
「たまには休みなさいよ」彼女の心配を助長させるとは分かっているが、その誘いには俺は『首を横に振る』以外の選択肢を選べない。

「俺が寝込むと、悪い事の前触れとか言い出す人もいるしさ」
「兄さんが思っているほど、みんなそんなに兄さんに興味ないわよ」

 ある意味それは本当で、けれど嘘だった。みんなは俺に興味はあるけれど、対象は俺自身ではなく俺の背にある勇者の二文字だ。
 姉さんはそれを知っていて、でもわざと俺をその二文字から離れさせるような事を言う。彼女の気遣いは有難いが、そういうわけにもいかない。

「女神探しも魔物退治も、サブイベントとやらの攻略も。勇者の義務じゃないんだから、もっとゆっくりすれば良いじゃない。魔王を討伐する予定もないんでしょ?」
「愛想振りまいて飾られてるだけなの、嫌なんだよ。せめて何かしたいじゃないか」
「だから、世間で今回の勇者様は頭がおかしいとか言われてるのよ」

 先人の勇者達の記憶は頭の中にある。俺からして見れば彼らのほうがよっぽど頭がおかしいのだけれど、悲しい事に世間の人はそうは思ってはくれない(とか俺が考えている事も、次の勇者には分かってしまうので困る。恐らく次の勇者は、『先代はとても頭がおかしかった』と思うだろう)
 紅茶を飲み干した姉さんが、カタリという音を連れながらカップを受け皿の上に置き、ニコリと微笑んだ。

「私は兄さん好きだけどね」
「どうも。俺も姉さん好きだよ」
「ふふ、ありがと」

「あ、そうだ」何かを思い出した彼女は、散らかったテーブルの上から何かを引っ張り出す。
 彼女の手に捕えられたのは、空色の封筒。姉は、すでに封がとかれていたそれから、色とりどりの細長い紙の束を取り出す。

「これ、兄さんに一枚あげる」

 そして、その内の一枚を俺の方へと差し出してきた。受け取りつつも、傾げられる俺の首。
 紙の正体は、栞だった。無地のそれは、どうやら誰かの手製のようだ。紙の手触りは良く、手間をかけて作られたのだという事がすぐに分かった。
 しかれども、俺は、「本なんて読まないぞ」

「読みなさいよ、たまには」
「本を読んでるところを誰かに見られでもしたら、何たらかんたらでご利益があるとか言われてその本が瞬く間にベストセラーになっちゃうんだよ……」
「難儀な人生ねぇ。いっそ、ボランティア代わりに売れない作家の人生を変えちゃいなさいよ」

 それから姉さんは、この前シキの家で読んだアンティ・エルヴィンとかいう作家の本がどれだけつまらなかったかについて力説をし始めたのだが、正直聞いていて退屈すぎる話だったので、キリの良さそうなところで俺は話を戻す。
 再び訪れた栞の話題に、姉さんは二杯目の紅茶を淹れながら嬉しそうに目を細めた。

「これね。この前シキちゃんが、手紙で送ってきてくれたの」

 慣れ親しんだ名前に思わず頬が緩みそうになったので、咳き込んだフリで誤魔化す。「やっぱり休んでいったら?」と問う姉に首を横に振ってみせながら、俺は手にある栞を裏返した。
 そこには、確かに彼女の描いたものであろう絵が佇んでいる。最初からこちらを表にして渡してくれれば、俺も黙って受け取ったというのに。

「人からの贈り物を、人にあげるなよ」
「『エフィレちゃんの好きなようにしてね』って書いてあったから、言われた通り好きにしてるだけだもん」

 それに、貴方が持っていたらシキちゃんだって喜ぶに違いないわ。なんて、姉は根拠も何もないであろうセリフをしれっと囁く。
 言い返すべき言葉が思いつかなかったので、俺は素直に栞を懐へとしまった。もともと、製作者の名前を聞いた時点で返す気などは毛頭なかったが。

 ◆

 事務所の隅、なるべく人目につかないところで貰った栞を眺める。そういえば、最近あいつの顔を見ていないような気がする。気じゃない、見てないんだよ馬鹿。自然と溜息がもれた。何をやっているんだろうか、俺は。
 ヒロイン一人守れないで、何が勇者なんだ。俺の表情に、苦味が混ざる。

「おい、エマンセ。いや、間違えた。アホ毛」
「間違えてないだろ。いちいち言い直すなよ」
「何を見ているんだ?」

 見られたくない相手に、見られたくないところを見られてしまった。
 さっきからそれを眺めてニヤニヤ笑ったり、かといえば落ち込んだりして、気持ちが悪い。と続けてきた相手に、「うるさい」と返す。
 相手が俺の手の中にあるものを覗き込もうとしてきたので、俺は慌てて、けれど折ってしまわないように注意しながら栞をしまった。相手はそれが面白くなかったのか、途端に不機嫌そうな顔になる。

「なんだ、隠すようなものなのか」
「お前には見せたくない」
「俺だって、別にお前の持ってるものなど見たくはない。まぁ、いい。エフィレに訊く。お前はエフィレには何でも話すからな」
「姉さんがお前に何でも話すと思ったら大間違いだ」

 それに、俺だって何でも話すわけじゃない。言ってない事なんて山ほどある。姉さんなら、言わなくても気付いていそうで怖いけれども。

「で、何を見ていたんだ?」

 こいつは、しつこいから嫌だ。
 未だ怪訝な様子の男に、俺は本日二度目の溜息を吐いた。

「……ただの、風邪薬だよ」
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