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神様への電話番号
お題配布元⇒約30の嘘

田村君。エフィレ+ミーリニア

 エフィレは、今日も仕事をしている。最近の彼女はというとどうにもお仕事にハマっているらしく、朝から晩までせこせこ動いている。
 彼女が手を止めるのは、近しい知り合いが会いにきた時くらいなもので、その日は久しぶりに顔を見せた幼馴染の姿にようやっとその手を止めた。

「あら、シキちゃん。ご無沙汰じゃない」

 なんて、眼鏡の奥の瞳を細めて笑う。片方だけにはめられた緑色の瞳は、今やすっかり彼女の所有物となっていた。
 ミーリニアは、彼女の為に店先で首を傾げながら買った紅茶をお土産に渡して、「久しぶり」と笑う。
 村にいた頃は毎日顔を合わせていたのに、最近はというと、すっかり会うたびにこのセリフを言うのが定番となってしまった。
 エフィレは仕事が忙しくて、ミーリニアも、やっぱり仕事が忙しい。遊ぶ事が仕事だった子供の頃を、懐かしく思う。

 なのに、「……暇ね」、と。仕事の書類に囲まれながら、エフィレは何て事がないように言う。
 暇ね。最近、何をやっていても暇なのよ。何か良い暇つぶしの方法ってないかしら? シキちゃん、何か楽しい事知らない?
 問われて、ミーリニアは少しだけ返答に迷った。でも笑う。笑って、「エフィレちゃん、わたし、今度隣の街で絵を描くんだ」描き終わったら見に来てね、と約束を交わす。

「うん、楽しみにしてるわ。シキちゃんの作品を見ていると、私、元気が出てくるのよ。あ、お世辞とかじゃないわよ、これ。本当の本当」

 ピカピカに磨かれたカップに口をつけ、「あー、美味しいわねー。癒されるー」と、女は端正な顔をへにょりとさせた。
 丁寧に整理して置かれた書類の山、塔と言った方がいいのかもしれない、の中に、ミーリニアは確かにそれを見つける。
 それというのは、エフィレが少し前まで愛用していた携帯通信機で、とある人とお揃いのものだった。「ワガママを言って、無理矢理お揃いにしてもらっちゃった」、と悪戯っぽく舌を出して言ったエフィレの顔を、ミーリニアは覚えている。
 その携帯通信機は、もう何年も使われずに、ただそこに置いてある。エフィレは誰ともお揃いではない新しい通信機を買ってしまったから、恐らくもうそれは、どこにも繋がらない。

「そうだ、知り合いに貰ったマドレーヌがあるのよ。一緒に食べましょ」

 あの日とさして変わらない笑顔で立ち上がったエフィレに、ミーリニアも笑みを返した。
 エフィレは多分、無理をして休みを作って、わざと遠回りして隣の街へ行き、一人でミーリニアの絵を見るのだろう。
 そして、次にミーリニアと会った時に、彼女に丁寧に作品の感想を述べるのだ。いつも通りの笑顔で。いつも通りの優しい声で。

 ◆

「はろー」
『はろー』
「忙しいー?」
『気にするな』
「あのね」
『うん』
「あのね」

 かなしい。

「げんきかなー?」
『うん。お前は?』
「へいき。ウハウハ!」
『そうか。良かった』
「あのね」

 あいたい。

『うん』
「何でもない。特に用はなかったの。えっへっへっ、ごめんね」
『……』
「うへへ」
『あのな』
「うん。ごめんね、忙しいのに」
『今からお前に、会いに行くよ』
「! ま、マジでか」
『マジでだ』
「……忙しいのに」
『勇者様にも休息は必要なんだ』
「わたしは、勇者様の羽やすめに利用されるんだね……!」
『その通り。……多分、明日の昼までにはつくから』
「うん」
『だから、泣くのは俺がついてからにしろ。な?』
「…………うん」
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