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写メといいプリクラといい、ファンタジーの住人なくせにこいつらは写真が身近すぎる。
田村君。バティドゥア+ぐれーてる。
「写真に残さねぇの?」
自分でも驚くくらいに眼前にある滝に見入っていたようで、突然割って入ってきた声に彼は目を少しだけ丸くした。
隣を見てみると、頭一つほど下のところに見知った少女の姿がある。ぐれーてる、という奇妙な名前の彼女(恐らく偽名だろう)は、手を頭の後ろで組みながら疑問で彩られた瞳で彼の事を見上げていた。
そこでようやく意識が現実に戻ってくる。「残さぬ」、とキッパリと少年は返事を女に吐き返した。
「ふぅん」、さして興味もなさそうに相手は呟く。
「なんで? 好きなんだろ、景色見んの」
だというのに、まだこの話題に縋り付くほどに暇なのか、彼女は次の質問を投げかけてくる。
数秒ほど彼は黙って、でもそれは別に答えを考えていたわけではなく、この答えを彼女(つまりは他人)が理解出来るような言い方にするにはどうしたら良いかを考えて、彼は黙って、そして結局一つも方法が思いつかずに何の包装もせずそのままの答えを相手に押し付けたのだ。
「拙者は、景色を見る事が好きなのだ」
「写真を見る事が好きなわけではない」、と続きの言葉も間髪入れず吐き出したら、存外彼女は素直に頷いて見せた。
理解されないだろうと思っていたので、彼は虚をつかれたように一瞬だけ言葉を見失う。不意打ちで、拍子抜けで、ほんの少しだけ胸に嬉しさがこみ上げてくる。
彼が何か言う前に、女は懐から自身の携帯通信機を取り出した。そして誰もいない方向に向かって構え、白い指でボタンを押す。
ぴろりーん、という聞き慣れぬ音が少年の長い耳を侵す。金髪の女が、世界を切り取った音であった。その時初めて、彼はそもそも自分がその機能を使った事すらなかった事を知る。写真を撮る時にそんなにも軽快な音がなる事など、彼は知らなかったのだ。
通信機で写真を取り終えた女が、「あー、ブレちった」と小声で呟いた。すぐに彼女はそれを仕舞ってしまったため、彼がその写真を見る事は叶わなかった。きっとこれから先見る事もないのだろうな、と彼女の横顔を見ながらなんとなしに思う。
滝の音は鳴り止まない。鳴り止む日など見えぬくらいに遠い。果たして、この滝が或るうちに自分はまたここにこれるだろうか。彼は考える。彼女のように、仮初だとしても切り取って持ち帰ったほうが良いのではないだろうか。彼は考える。考えただけで、自分の意志を変える気などさらさらなかった。
女はついに彼との会話に飽き、別れの挨拶もせずにその場を離れる。ぴょんぴょんと兎のように跳ねながら、彼女は何やら声に出しながら、きっと多分彼女の慕っているこの事務所のリーダーを呼んだのだろう、テントのほうへと歩いていってしまう。
少年は何気なく携帯を取り出し、構えた。滝の音に、また別の音が混じる。
ぴろりーん。
何故自分がそうしたのかは分からない。無理矢理に言葉にするならば、衝動、というやつかもしれない。けったいな衝動もあったものだ。
自分自身に呆れながらも、少年は今しがた自分が撮ったものを見やる。
ブレていて見えにくいが、そこには確かに黒頭巾の女の後姿が写っていて、どうしてか彼は安堵したように息をついたのだった。
自分でも驚くくらいに眼前にある滝に見入っていたようで、突然割って入ってきた声に彼は目を少しだけ丸くした。
隣を見てみると、頭一つほど下のところに見知った少女の姿がある。ぐれーてる、という奇妙な名前の彼女(恐らく偽名だろう)は、手を頭の後ろで組みながら疑問で彩られた瞳で彼の事を見上げていた。
そこでようやく意識が現実に戻ってくる。「残さぬ」、とキッパリと少年は返事を女に吐き返した。
「ふぅん」、さして興味もなさそうに相手は呟く。
「なんで? 好きなんだろ、景色見んの」
だというのに、まだこの話題に縋り付くほどに暇なのか、彼女は次の質問を投げかけてくる。
数秒ほど彼は黙って、でもそれは別に答えを考えていたわけではなく、この答えを彼女(つまりは他人)が理解出来るような言い方にするにはどうしたら良いかを考えて、彼は黙って、そして結局一つも方法が思いつかずに何の包装もせずそのままの答えを相手に押し付けたのだ。
「拙者は、景色を見る事が好きなのだ」
「写真を見る事が好きなわけではない」、と続きの言葉も間髪入れず吐き出したら、存外彼女は素直に頷いて見せた。
理解されないだろうと思っていたので、彼は虚をつかれたように一瞬だけ言葉を見失う。不意打ちで、拍子抜けで、ほんの少しだけ胸に嬉しさがこみ上げてくる。
彼が何か言う前に、女は懐から自身の携帯通信機を取り出した。そして誰もいない方向に向かって構え、白い指でボタンを押す。
ぴろりーん、という聞き慣れぬ音が少年の長い耳を侵す。金髪の女が、世界を切り取った音であった。その時初めて、彼はそもそも自分がその機能を使った事すらなかった事を知る。写真を撮る時にそんなにも軽快な音がなる事など、彼は知らなかったのだ。
通信機で写真を取り終えた女が、「あー、ブレちった」と小声で呟いた。すぐに彼女はそれを仕舞ってしまったため、彼がその写真を見る事は叶わなかった。きっとこれから先見る事もないのだろうな、と彼女の横顔を見ながらなんとなしに思う。
滝の音は鳴り止まない。鳴り止む日など見えぬくらいに遠い。果たして、この滝が或るうちに自分はまたここにこれるだろうか。彼は考える。彼女のように、仮初だとしても切り取って持ち帰ったほうが良いのではないだろうか。彼は考える。考えただけで、自分の意志を変える気などさらさらなかった。
女はついに彼との会話に飽き、別れの挨拶もせずにその場を離れる。ぴょんぴょんと兎のように跳ねながら、彼女は何やら声に出しながら、きっと多分彼女の慕っているこの事務所のリーダーを呼んだのだろう、テントのほうへと歩いていってしまう。
少年は何気なく携帯を取り出し、構えた。滝の音に、また別の音が混じる。
ぴろりーん。
何故自分がそうしたのかは分からない。無理矢理に言葉にするならば、衝動、というやつかもしれない。けったいな衝動もあったものだ。
自分自身に呆れながらも、少年は今しがた自分が撮ったものを見やる。
ブレていて見えにくいが、そこには確かに黒頭巾の女の後姿が写っていて、どうしてか彼は安堵したように息をついたのだった。
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