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立つ鳥、「後五分」
田村君。レウクロウ×キシャル。

 同居人は朝に弱い。というより、夜に強すぎる。どうも体内時計が、他の人間と十二時間ほどズレているらしい。
 そのせいか、彼女は仕事やら趣味やらを全て夜の時間に詰め込もうとする。一度一日の計画表を見せてもらった事があるのだが(所長の気紛れで、一ヶ月ほど書くはめになったのである。何故そんなものをわざわざ所員に書かせるんだ、ふざけてるのかと犬耳の青年は憤慨したものだ)、思わず『PMとAM間違えてますよ』と注意してしまいたくなるほどのものであった。
 訊いてみたところ、昔からずっとこんな生活を送っているというのだから、もう何を言う気も彼からは失せてしまう。「へぇ、そっかそっか」かろうじて返せたのは、そんな重みのない相槌くらいなものだ。

 彼が起きた頃に彼女は布団に潜りこみ寝息をたて始める。それが日常。
 ただでさえ自分自身は朝方なのだ。どうにも彼には彼女の気持ちが理解出来ない。
「あれだぞ、早起きは三文の得って昔の偉い人も言ってたんだぞ」、寝に入ろうとしていた彼女にそんな言葉をかけてやったら、「三文ってなんですか?」と返されて言葉に詰まった。サンモンがいったい何なのか彼は知らない。
「そりゃあれだよ、凄ぇもんだよ。後ろに得って字がくっついてきたし、少なくとも悪いもんじゃねぇ事は確かだ」苦し紛れに呟いた言葉を、もはや彼女は聞いていなかった。夢の世界へと旅立った女の姿を見つめながら、彼が納得がいかないとでも言うように眉をしかめたのは言うまでもないだろう。

 まだ、寝る時は良いのである。誰がいつどこで寝ようが彼には関係がない。問題は、起きる時だ。
 どれだけ嫌でも、仕事の時間になったら彼は彼女を起こさなければならない。何故かと訊かれれば少しだけ返答に詰まるが、ようは義務のようなものなのだ。一緒に暮らすと決めた時点で、こういう事は覚悟しなくてはいけない。同じ屋根の下暮らしている者同士、協力出来るところはすべきだ。彼は妙に『助け合い』やら『協力』やら、そういった類の言葉を好いていた。
 そもそも、彼女が仕事に遅れて困るのは、どちらかというと彼女ではなく彼のほうだ。彼女はたとえ給料がなくなろうが仕事をクビになろうが家を失おうが路頭に迷おうが平気だろうが(そういう性格なのだ)彼にしたらそれはたまったもんではない。
 この家の家賃は二人でお金を出し合って払っている。それでも月末は頭を悩ますはめになるのだ。人数がマイナス一されたら、泣く泣く荷物を集めて夜に逃げ出すはめになってしまうではないか。

 だから、今日も彼は彼女を起こしに行く。
「おい」まずは声をかける。「キシャル」次に名前を呼ぶ。「起きろ」ついでに用件を手短に伝えてみる。
 それだけで反応が返ってくればラッキーなのだが、今日はどうやらその前にアンがついてしまう日だったらしい。昨日も一昨日もそうだった気がする。一昨々日はどうだったか、と思い彼はそれ以上考えるのをやめた。考えたところでどうしようもない。知り合いの事務所の人間の口癖を借りるなら、どうでもいい。
 読んでいた新聞を綺麗に畳みあげ、彼はベッドの前へと向かうとおもむろに布団を頭まで被ってしまっている彼女の体に蹴りを入れた。妙な呻き声はあげたものの、それでも起きる気配がないとは……と内心感心までしてしまう。
 そのままがしがしと蹴り続けていたら、大きな舌打ちをされた。彼もそれに負けじと舌打ちを返してみたのだが、彼女はまた眠りについてしまっていたのでそれは室内に空しく響いたのみ。何の意味も持たない雑音にしかならなかった。

「おい、人が親切で起こしてやってんのに、その態度はなんだよ」

 蹴る足を止めずに、男は言う。

「大きなお世話なんですよ。人がせっかくすやすやと安らかに眠っていたっていうのに、何なんですかいったい。こんな事してる暇あったら、さっさと朝のお散歩でも行ってきたらどうですか。なんのためにあんたを放し飼いしてると思ってるんです」

 返事が思ったよりも早く返ってきて、ほんの少しだけ驚いて、ほんの少しだけ安堵した。たまに、自分の前にいる者が生きているのか死んでいるのか彼には分からなくなる。
 よく考えてみれば簡単に分かる事なのだが、どうしてか考える事すらも出来なくなってしまう。
 思えば、死体と長く一緒にいすぎたのかもしれない。もしくは、一緒にいた人が死体になりすぎたのかもしれない。

「テメェいいかげんにしろよ。こんな格好良いわんわん捕まえて、何をしだすかと思えば『散歩に行け』っていうしょうもない説教か。馬鹿にすんじゃねぇよ、朝の散歩ならもうとっくに行ったわ!」
「ツッコミどころズレてますよ。とにかく私眠いんで寝ます。おやすみ」
「そのまま永遠の眠りにつかせてやろうか!」
「いやいや、馬鹿なセリフを馬鹿が言ってどうすんですか。救いようないです。意味分かんないです、寒いですし痛いですよ。今度からそういうのはあれです、犬語で言ってください。あまりの馬鹿らしさに、本来の馬鹿っぽさをもしかしたら誤魔化せるんじゃないですかぁ?」
「そのまま永遠の眠りにつかせてやるワン!」
「アハハ、カワイイカワイイ。じゃあ、そういう事でおやすみなさい」
「寝るんじゃねぇ! 寝たら死ぬぞ!」
「あー、ちょっと今武器構えてません? やめてくださいよぉ。ここでそれ使ったら私だけでなくあんたも死にますし、そもそも家に傷がつくじゃないですか。あんたの気に入ってるテーブルも粉々になりますよ、良いんですかぁ? 良いなら別に私は構いませんよ」
「ばっか、構えよ! お前あのテーブルの価値分かってねぇのかよ! すっげ高かったんだぞ! 家具市で俺がどんだけ悩んで買ったと思ってんだ! しまうわ。武器今すぐしまうわ」

 手に持っていた武器を、普段のように背中へと青年は背負い直す。
 ようやくそこで彼女の意識も現実へと戻ってきたようで、布団から二本の腕が出てきた。
 本日二度目の舌打ちをこぼしながらも、彼はその手を掴みぐいっとそのまま引っ張り上げる。起き上がった彼女と、目が合った。が、挨拶も感謝の言葉もその口からはこぼれなかった。かわりにその口が吐き出したのは、たった一つの欠伸のみ。
 寝ぼけ眼のまま、彼女は床へと降り立つ。青年との手は繋いだままである。彼は指の先にある女の姿を今一度確認し、珍しく呆れたように肩をすくめてみせた。

 ――全く、立ち上がらせるのすら一苦労。
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