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夜を止める長い雨
お題配布元⇒約30の嘘

田村君。ロタン+ミーリニア。

「にゃー。三班の班長さんに見つかったら、説教されちゃうにゃー……」

 猫耳帽子を被った兎耳の少女が食堂の机の下でこそこそとしていたので、何してるの?と問いかけたら、彼女は顔文字みたいな情けない顔をして体を縮こませた。また何か悪戯をして、あの人の怒りを買ったらしい。
 ミーリニアはクスクスと笑って、自分は隠れる必要なんてないのに、一緒になって机の下に潜った。
「なんだか、かくれんぼみたい」小さく呟いた言葉に、怯えていたはずの獣はキラリと目を輝かせ、「かくれんぼ! 今度一緒にやろうにゃ!」と子供みたいな発言。

「年齢なんて関係ないにゃあ! いくつになっても、人生楽しまなきゃ損損にゃ!」

 そう言った彼女の声が大きかったせいか、「ツェルナー!」という怒声が直後室内に響き渡る。「にぎゃあああ! 見つかったにゃ!」慌てて逃げて行った兎は、数日後、本当にミーリニアの事をかくれんぼをしようと誘ってきた。
 少女は実はその遊びを話に聞いた事があるだけで実際にやった事がなくて、ドキドキしながら隠れたり、みんなを捜したりしたのだ。

 ――もういいかい?

 ◆

 もういいかい? 十秒目を閉じて、尋ねる。
 待っても待っても、返事はない。痺れを切らして、ズルをして返事を聞かずに捜しに行くけれど、誰も見つからない。
 大切なお友達。もう、ここには一人もいないのだ。

 幼馴染の少女に会いに来ただけなのに、何枚も書類を書く羽目となっている。その理由は、受付の男性が変わってしまったからだった。
 前の受付の青年なら、ミーリニアの姿を確認するなり笑顔で「ああ、お前か。今日は保護者はどうしたんだ? 一人で大丈夫か?」と問いかけながら、適当な審査で彼女を迎え入れてくれた事だろう。
 けれど、彼の姿は今ここにはない。鳥籠を模したどこか儚げなその場所には、そこにはあまり似合わない大柄な男が座っている。前の受付の人はどうしたのかと尋ねれば、「さぁ、どうしちまったんだが……」なんて不明瞭な答えが返ってくるだけで、結局ミーリニアは彼の手がかりを掴めないままだ。

 みんな、いなくなってしまった。

 書類を書く。前は書く必要などなかったたくさんの書類。
 本当は、こんなに書かなきゃこの事務所には入れないものだったのか。と、前の受付の青年の適当さにミーリニアは少しだけ笑ってしまい、隣で自分と同じように書類を書いていたらしい少年に変な目で見られてしまう。

『良いよ良いよ、入っちゃいな。お前が悪い奴じゃないって、俺が保障するよ』

 あの男性は何を根拠に、あんな事を言って自分の頭をぺしぺしと叩くように撫でていたのか。
 笑って、笑って、笑っているのに、何故かミーリニアはあまり楽しい気分にはなれなかった。
 ふと、書かなきゃいけない事の中に、『入国理由: 』という欄があるのに気付き、少女の手が止まる。
 入って何をしようというのだろう。エフィレも仕事が忙しくて、必ず会えるとは限らない。自分は、何をしにここまできてしまったのだろう。
 前は、何の目的がなくてもここにくるのが楽しかった。けれど、今は――

「はあ!? ちょ、おかしくね!? なんで!? なんで受理出来ないの!? テッメ、俺様を誰だと思ってんだコラァ!?」

 急な大声に顔をあげると、隣にいた少年が何やら受付ともめている。
 茶色の髪に金色の瞳、片方だけ長いサイドの髪に眼鏡。「あ、れ……?」まじまじとその顔をよく見ていると、知り合いによく似ていた。
 
「ヒロさん?」
「ちっっっげぇえええええ! なんでそうなっちゃったんだよ何なのお前馬鹿なの!? あんな奴と一緒にすんなコラァテメッ、これあれだからな、大罪だからな! これが原因で地獄に堕ちたとしても俺様責任とれねぇから、マジで!」
「……す、すみません」
「謝ったくらいで許すか! 末代まで恨み殺してやんよっ!」

 似ているだけで、違ったようだ。思えば、彼女の知っているその少年は、そんな風に乱暴な言葉を使う人ではなかった。
「あー?」と相手は何かに気付き、ミーリニアの顔を覗き込んでくる。マジマジと顔を見られる事は、慣れていはいるけれどあまり好きではない。
 不機嫌そうに顔を歪めていた相手の顔が、驚愕のそれへと変わる。人を指さしてはいけないと教わった事もない少年は、ミーリニアの方をビシリッと指差した。

「あーっ! おま、お前っ! おま…………、あれ誰だっけ!? 凄ぇ見た事ある顔!」

 一人盛り上がる少年を前に、少女は頭の上に疑問符を陳列させる事しか出来ない。
 騒ぎすぎたせいで受付の男の怒りにさすがに触れ「うっせぇなぁ! 静かにしろや!」なんて男が喧嘩腰で言うものだから、少年の方もカッとなり「テメェ誰に向かってもの言ってんだ!? 俺様だぞ!?」「誰だよ!? 周りの迷惑だ、さっさと出てけ!」なんて始まる口論。
 結局少年の方が折れて、涼しい室内からうだるように暑い外へ大股で出て行く。

「うるせえぇええええええぇええええ! 言われなくとも、こんな場所もう二度とこねぇよ、バァァアァアアアァァァッッッカ! ちきしょう、俺がどんな思いでわざわざここに出向いてやったかも知らないでよぉおおおおお! ハゲがっ!」
「ハゲてねぇよ! ふっさふさだろうが、眼鏡変えて出直してこいや! 眼科行け!」
「二度とこねぇっつてんだろ! 俺様が眼科に行ってやったあかつきには、テメェは耳鼻科行けよなぁ!」

 最後にそんな、捨て台詞?を残して。
 去り際に彼が蹴った鳥籠が、カァンと良い声で鳴いた。


 地を焼くように照りつける太陽の明かりが、少し眩しい。ようやく面倒な審査を終えて、頬にカナリアを描いたミーリニアが出てくる。
 そしてすぐに、事務所の壁に背を預けながら、「あぢぃー。死ねー。太陽、死ねー」とか言っている少年の姿を見つけた。先程の彼、だ。
 ミーリニアの視線に気付き「何見てんだコラ、見物料取るぞ!」と睨んできた彼の額からは大粒の汗が流れ落ち、レンガ造りの路に小さな小さな水たまりを作っている。
 それを見て、少女は小走りでどこかへと駆ける。少年は何を言うでもなく、彼女を見送って、「ホントもう死ねー……」なんて意味のない一言を呟く。見上げた空は青いし広いし、雨が降る気配なんて微塵もない。
 しばらくして、またてこてこと走りながら少女が帰ってきた。彼女の手の中にあるのは、二本の缶ジュース。

「良かったら、どうぞ」

 その内の一本を差し出せば、少年はひどく居心地の悪そうな顔をした。

「お前ちゃんよぉ、こんなジュース一本で俺様を落とせると思ったら大間違いだかんな」

 けれどちゃっかり受け取って、その冷たさに目を細めたりする。

「まぁ、あんがとよ。……ちっ、なんで俺様がテメェなんかにお礼言わなきゃいけないんだか。駄目だな、ここくると調子狂うわ」
「……どういたしまし、て?」

 彼の隣の壁に、彼の真似をしてもたれかかり、ミーリニアも苺の果肉の含まれたそれを喉に流し込む。
 少年は一気にそれを飲み干して、ぷはーっと息をついて、「生き返った! 俺様生き返った!」と先程までの鬱屈とした表情を吹き飛ばしニッコニコと嬉しそうに笑った。
 そんな彼の横顔を見ながら、ミーリニアもえへへと嬉しくなる。そして、前にもこんな事あった気がするな、と。知人と顔が似ているせいもあるかもしれないが、彼とは初めて会った気がしないな、なんて事を思う。

「あの、どこかで会った事ありますよね?」

 えへえへ、とのんきに笑った後、ハァ!まるで一昔前のナンパのようなセリフ!と気付きミーリニアは急に恥ずかしくなった。
 ただでさえ暑いのに、ミーリニア自身が自分の首を絞めてどうするというのだろう。その上少年が目に見えて面倒臭そうな顔をしたので、今にもこの場から逃げ出したい気分だ。

「あー、なんつーか……会った事あるけどねぇっつか、お前と俺様とは完全に初対面だわ。でも、俺様お前の事知ってんぜ。さっき思い出した。今日は相方どうしたん?」
「相方?」
「ほら、なんかあの白い髪で背が高くて意味不明な事ばっか言う奴さぁ……。ゆーめいじん? お前いつもそいつと一緒にいなかったっけ? 俺様の記憶違いとか言い出したら、その図の高さに俺様はマジでぶちキレちゃう五秒前だけどな」
「あー……」

 すぐに、一人の人物が頭の中で踊る。恐らく、いや絶対、彼女の幼馴染の青年の事だろう。

「えっと……」

 答えにくい質問だった。ちらりと視線をさ迷わせ、彼女はなんと返すべきなのか言葉を探す。なかなか見つからない。
 それを知ってか知らずか、最初からさして興味もなかったのか。彼は彼女の返事など待たずに、「つかお前名前なんだっけ?」なんて別の問いを投げかけてきた。

「ミーリニアです。ミーリニア・シキ・チェカット」

 幸いにも、こちらの質問には簡単に答える事が出来る。お返しに、こちらも質問。「きみの名前は?」

「ふっふっふっ、知れる事を光栄に思えよなぁ! 俺様の名前はロタ…………、あ、やべ。あんまり名前とか言いふらしちゃいけないんだった……。あー、なんだ、うん、あれだ! 俺様、名乗る程の者じゃねぇから! つーか、一般人風情が俺様の名前を知れると思ったら大間違いなわけよ。オーケィ?」
「お、オーケィ……」
「まぁ、俺様この街にはちょっとした因縁があったっつーかね。つかこの街の十三区に昔勤めてたみたいな、そんな感じのノリだったわけよ。ちょ、聞いてよ。当時の俺様ちゃんの上司、マジ頭おかしくてさ。俺様が何かの場面でお礼を言わなかったら、すぐ鉄拳制裁だぜ。つかすぐ怒鳴るしすぐ殴るし、マジあの筋肉無駄遣いだし礼儀知らずだわ」

 それは自分の知っている人の事かもしれない、とミーリニアは思って、ちょっとだけ虹色の瞳を大きくする。
 彼女の知っている人がほとんどいなくなってしまった街で、今彼女は彼女の知っている人の事について知っている人と話をしている。

「まー、そんな糞班長と糞班員しかいねーしょーもねー班だったんだけどな。思い出しただけでも胃がムカムカしてくるわ、俺様が鍋にして食ってやりゃ良かったぜ。あ、そんな班にも一人凄ぇ天才がいたけどな!」
「えっと、シェキサさん……ですか?」
「ちっっっげぇよ! 駄目だわー、お前駄目だわー。うちの班についてぜんっっっっぜん分かってねぇわー。お前にうちの班語る資格ねぇってこった、もう帰って寝てなお嬢ちゃん!」

 試しに一人の女性の名前を出してみたが、否定はされなかった。

「わたし達、やっぱり」
「なによ」
「やっぱり、会った事ありますよね」

 その言葉はまるで独り言みたいに彼女の口から呟かれて、けれど少年は「知らねぇ」なんてちゃんと返事を返す。
 少年の横顔をちらりと見やれば、彼はどこか遠くを見ていた。遠い昔のあの日を、思い返しているかのように。
 ジュース一本じゃどうする事も出来ない、また雫が地へと落ちる。「あぢぃな」の一言に、ミーリニアも「暑いですねー」と返す。


 もういいよ、の言葉を、彼も待っているのかもしれない。ミーリニアとは別の意味の、「もういいよ」
 ズルして言われる前に捜しても、やっぱり見つからないんだ。どこにもいない。こちらを撫でる、赦す手。

 もう、泣かなくても、いいよ。

 ……声は聞こえない。見つからない。目を閉じて、たとえ何秒待っても。
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