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平成某年信仰不足
オリジナル。神様の恋の話。

 神様が恋をなさりましたが、神様は神様を信じている方にしか見えないのです。
 その上、日本は八百万。 神様の数は、それはそれはとても多い。
 メジャーな神様ならともかく、彼女は、嗚呼、そもそも神に性別があるかどうかも分かりませんが、彼女が恋をした相手は男性なので彼女としておきましょう、彼女は星占いの十一位の神で御座いました。
 ええ、星占いで御座います。その上、十一位で御座います。
 この世に存在する全てのものに神様は存在するのですが、神は人に信じてもらえないとその姿を世に現す事は出来ないのです。
 誰にも見える事も触れられる事もなく現世をふよふよと漂い、自分の職務を全うするのです。
 あまり人に信じてもらえないマイナーな神達は飲み会に行くたびに私に愚痴をこぼします。

「ああ、メジャーな神はいいね。うちなんて、空になったジュースの紙パックの神だから、信じてくれる人なんて、誰もおらんの」
「そもそも、紙パックを信じたところで何も起こりはしませんもの。こちらも同じようなものですわ。私、絶版となってしまった漫画の神なんでございましてよ」

 それはそれは、と私は愛想笑いをこぼしますが、どうしようもない事なのです。
 そもそも、神様とは人に見られてはいけないものですし、見えるようにも作られていないのです。
 信じる、というのはひどく曖昧なもので、毎朝教会で神にお祈りしているものさえ、神の姿を見た事はないでしょう。
 信じる、というのはひどく曖昧なもので、ああ、助けてくれ神様、と普段は無心論者を気取っているものが突然何を思ってか叫んだ時、神が見える時もあるのです。

 星占い十一位の神様は、メジャーとはいえませんので、彼女を信じてくださる方などおりませんでした。
 十二位や一位の神様は、少しだけ見える方も長年生きているといらっしゃるようですが、彼女を見た事がある人間は未だかつて私は見た事がありませぬ。
 そんな、星占い十一位の神様は、恋をなさったのです。

 相手は普通の人間でありました。
 どこもおかしいところも変わったところも見られない、十代後半くらいの少年で御座います。
 あの人間のどこが良いのでしょうか。
 そう私は思ってしまいましたが、いやはや、恋心はまこと複雑なもの、深く考えるのはよしましょう。

「私は恋をしてしまいました」

 彼女は彼の後姿をこっそりと木の陰で見守りながら呟きます。
 わざわざ隠れなどしなくても、相手に自分の姿は見えぬというのに、それでも木の陰に身をひそめ、「私は恋をしてしまいました」、ひどく落胆したお声で呟きます。
 このままでは、職務に支障をきたしてしまうのでは、とご心配なさった他の神様達が彼女を見舞っても、彼女は「大丈夫です」と首を横に振るばかりでございました。
 実際、彼女が自分の仕事を怠る事はなかったわけありますが、それでも彼女の事が私は心配でたまりませぬ。
 星占い十一位の仕事は微々たるものですが、他の星占いの神様達との意思の疎通が何よりもの大事なのです。
 一つが狂ってしまうだけで、星占いの全てが狂ってしまうのですよ、と星占い六位の神様はよく呟いておられました。
 三位の神様が私に愚痴を言いにきたのは、その日の午後で御座います。

「十一位の意思が、最近あっちへふらふらこっちへふらふらなのです」

 意思の疎通が難しいのだ、と相手は困ったように笑いました。
 ええ、そうでしょうね。
 と、私は返す事しか出来ませぬ。
 神様といえど、恋をすると心が宙ぶらりんになってしまうものなのです。
 それは仕方ない事なのです。

 ◆

 今日も彼女は木の陰に隠れ、彼の後姿を見守っておられます。
 彼は不思議な方、と彼女は常々おっしゃっておられました。

「捨て猫の世話をしておられるのです。もう廃れた神社にて。捨て猫の神が、もうこの猫は助からないと隣で困ったように彼を見やっているのですが、彼はそれには気づかないのです」
「そうでございますか」
「私、恋をしてしまいました」
「そうでございますか」

 私の声は彼女には届かないのですが、私は呟かずにはいられませんでした。
 彼女は彼は優しい人だとしきりに呟くのです。
 私はそれに頷くのです。
 時間は過ぎていくのです。

 嗚呼、困った。
 彼女の恋が気になって仕方がない。
 このままでは私の職務にも影響が出てしまうというもの。

 困り果てた私は、私の事が見える方に頼みに行く事にいたしました。
 彼女の恋が気になっていたしかたありません。
 このままでは、私も職務に集中が出来なくなってしまいます。

「あら、どうして彼女の恋が気になるの?だって彼女は、ただの星占いの十一位の神よ」
「ええ、そうです。そうですとも。しかし、彼女は今必死で恋をしているのです。必死で恋をしている方がいると、どうしても私は気になってしまうのです」
「それは困った」
「困りました」

 結局、良い考えは浮かばなかったのです。
 困りました。
 困り果ててしまいます。

 ◆

 しかし、私の悩みはすぐに解消され、私はすぐに職務に集中できるようになるのです。
 と、いうのも、彼女の恋、どうやら終わってしまったようでございます。

 廃れた神社におられました彼女は、いつものように彼の後姿を見つめておりましたが、彼の横にはこれはこれはかわいらしいお嬢さんがおられました。
 一目見て分かりましたが、彼と彼女はどうやら恋人同士という関係のようです。
 ああ、そうです、彼女は失恋をしてしまったのです。
 最初から神が人間と結ばれる希望など残されていませんでしたが、それでも私はどうしようもなく悲しくて仕方がありませんでした。
 彼女は呟きます。

「ああ、私の恋は終わってしまったのですね。でもいいのです。その方がいいのです。星占い十一位の神などの姿が見えても、星占い十一位を信じたとしても、彼に得する事などカケラもないのです。彼にはもっと別のものを、私は信じてもらいたいのです。例えば」
「はい」
「例えば、捨て猫を愛でるお心とか、隣の彼女を守るお心とか」
「はい」
「捨て猫は命を失う事はなかったのだそうです。捨て猫の神と飼い猫の神が喧嘩をなさって、飼い猫の神が勝ったそうです。これは彼のおかげだったのです」
「はい」
「彼がいたから、神は喧嘩をしてまで猫の命を守ろうとしたのです。彼の優しさに心をうたれたのです。神もまた、人を信じているのです。いつか、人が我ら神全てを信じてくれる日を、彼らを信じつつ待ち続けているのです」
「はい」
「私の恋は終わってしまいました。それでもいいのです。彼が、彼が笑っているのなら、私はそれでいいのです。私は、星占い十一位の神のままでいいのです」
「はい」

 彼女はその日一日、ずっとその場に立ち続けておられました。
 彼と、彼の彼女が猫を抱いたまま家に帰っても、それでも、彼女はそこに立ち続けておられました。
 嗚呼、本当滑稽なお話だと思われるかもしれませんが、つい私は涙をこぼしてしまったのです。
 木の陰で、黙って誰もいなくなったほうを眺めている彼女の後姿が、悲しくて仕方がなかったのです。

 唯一の救いは、彼女に私の姿が見えず、声も届かなかった事でしょう。
 でも、それが彼女の唯一の罪でもあったのです。

 なぜかといえば、私は恋愛の神。
 そう、彼女は私の事などかけらも信じていなかったので、この恋を成就させる事が出来なかったのでした。
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